凶悪性や犯罪性というよりも、人間的にあの男には、そのような大それたことができる度胸のようなものがないように、山中には感じられた。
そんなことを、休みの日にまで考えている自分にちょっと疲れを感じ、山中は近くのコンビニまで散歩がてら出かけることにした。
ちょうど雨もあがり天気も回復していた。
道のところどころにできた水たまりを避けながら、山中がコンビニまで行くと、店の前のところで若い男と女が言い争っている声が漏れ聞こえてきた。
女がしきりに「大丈夫ですから・・・そんな、困ります」などと言っているのが山中の耳に届き、その声に山中は言い知れぬ不安を覚えた。
その若い男女の顔がはっきりとわかるくらいに近づくと、山中はハッと思うより早く、駆け足で二人に近づいた。
女の方は今年高校3年になった、娘の亜沙子だった。
「ちょっと君!」
山中は男に向って叫んだ。
「あ、お父さん」と亜沙子が振り返りざまに言う。
「・・・あ、あの・・・」
急に声をかけられた若い男は、山中の剣幕になすすべがなかった。
「うちの娘に何か用かね?」
「あの・・・その・・・」
「あのね、お父さん、違うの、これはね」
「亜沙子、お前は黙っていなさい。君、何か言ったらどうだい?え?遠くからでも娘の嫌がる声が聞こえてきたよ、え?どういうことなんだい?」
「いえ、すみません」
「君、すみませんじゃないよ、え?なんなら出るとこ出ようか?」
「え、そんな・・・」
「だったら早く行きなさい」
「はい。あの、本当にすみませんでした」とその青年は、再度亜沙子に謝った。
「気にしなくていいんですよ」
亜沙子が困りきった顔で言うのを、最後まで聞かずに、若い男はバイクに跨り走り去っていった。
「亜沙子、大丈夫か?怪我はないか?え?まったく忌々しい奴だ」
山中は舌打ちしながら言った。
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