萩原慎太郎は、知らない振りをして巴江から新しい情報を引き出そうと試みた。
「ええ、そりゃもう、まあこんなのは今に始まったことではないですけどね。昔からですけど。それで今回も父と母に泣きついてきて困っている、って母から聞かされていたんですよ。
まあ、毎度のことですから、真彦ったらいくつになっても仕方のない子だなって、わたしなんかはまたいつものことだくらいにしか考えてなかったんですけどね」
「なるほど、そんなことが・・・真彦さんは、昔からご両親にかわいがられていたのですか?」
「かわいがられてたっていうより、甘やかされていたんですよ。父は昔気質の仕事人間でしたし、母がそれはもう『まーくん、まーくん』とね、甘やかして」
「なるほど」
「まあ、それもね、今となっては、わたし自身が親になってみればわからないでもないんですけどね」
「どういった点が?」
「あれですね、実はわたしと真彦の間に本当は弟がいたんですよ。真彦からみれば兄ですね。ですけどね、わたしが9歳の時にその弟が病気でね、死んでしまったんですよ、その弟は5歳でした。まあ、この辺は田舎ですから、長男はゆくゆくは跡取りですからね、その長男が死んでしまったことでね、でも病気だったんですよ。でもね、母はいろいろ言われたみたいですよ、親戚やら近所やらからね。
狭い田舎の世界ですからね。それでその弟が死んでから生まれてきたというか、作ったのが真彦だったんですよ。
ですからみんなが、特に母がかわいがっていましたよ。でもね、わたしもその気持ちはわかりますよ。親戚がどうのではなくて、自分の息子が病気といえども死んで、新たに生まれてきた子をかわいがりすぎるっていうことは、ある程度は仕方のないことではないのかと思いますよ・・・」
「はぁ、そんな過去があったのですか・・・いやいや、これは長々とすみませんでした」
あまり長居をするのも憚られたので、萩原たちは腰をあげた。
巴江はもうしばらくはこちらにいるので、何かあったら寄ってくれるように萩原たちに言った。
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