「まあ、勢いあまって灰皿で机を叩くっていうのはあったかもしれませんが・・・」
「机や椅子を蹴りあげたり、胸倉を掴んで振り回したりというのは?」
「さあ、覚えていません」
「大切なことです。思い出してください」
「異議あり。それらのことは弁護人の供述から、若い取調官の行為と思われますので本証人とは関係のないことであります」
「異議を認めます」
「ふぅ~・・・それでは、今回の件は長年の経験とカンからして、すぐに被告人が真犯人であると感じましたか?」
「まあ、思いましたね」
「もしかしたらこの被疑者は違うんじゃないのかとは、微塵も思われませんでしたか?」
「ええ、もちろん」
「それはなぜですか?」
「それはそういうふうに思わなければいけないからです」
「もう少し詳しく・・・」
「こちらが一瞬でも気を抜いたりしてスキでも見せたら、逆に遣り込まれかねないですからね。なにせ相手は狡猾な犯罪者ですから」
「そうですか。それでは白いものでも黒という意気込みで臨んでいると?」
「異議あり。誘導尋問です」
「認めます。証人は答える必要はありません」
「それでは、証人に尋ねます。被告人は3月7日高山夫婦の殺害を認める供述を始めています。それまでの取り調べにおいて、何か不自然な点などは感じられませんでしたか?」
「いえ、特には。被告人は罪を認めて、やっと楽になったというほっとした表情でした」
「ほっとした表情?被告人がほっとしたのは、きつい取調がひとまず一段落したからではないですか?」
「異議あり!」
「認めます」
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