金貸しの男に紹介してもらって、そいつに殺させよう、と犯人は考えた。
いわゆる嘱託殺人です。
しかし、もしそいつが捕まってしまったら、いずれ自分も捕まって嘱託殺人がばれてしまうだろう。いや、むしろそいつが捕まらなかったら、まっさきに疑われるのは自分だ。
そこで狡猾な犯人は考えた。
都合よく代わりに捕まってくれる奴はいないか?と。
そこで金貸しの男と相談した犯人は、金貸しの知り合いで、窃盗の常習犯である被告人国定徹を利用することを思いついた。
ウソの情報で被告人を釣り、その場におびき寄せた。
そして、被告人は犯人たちの姦計にまんまとはまった。
犯人と中島知也は、被告人の後をつけ、家の中に入ると、被告人国定徹を殴打し気絶させた。
そして、高山夫婦を殺害した・・・それから、犯人たちは被告人のゴム手袋を取り、凶器に用いた包丁を握らせ、被告人の指紋をつけ、その包丁を現場に残した。
被害者の血痕をわずかにつけてから、現金30万円の入った封筒を被告人のポケットにねじ入れ、被告人国定徹の頬を軽く叩いて起してから現場を去った。
現場を去った犯人たちは、近くの公園で服や体に着いた血を洗い流し、中島は着ていたコートをゴミ袋に入れた。
そして、最後に被告人のアパートのベランダにそのコートが入ったゴミ袋を投げ入れ、後は被告人が逮捕されるのを待った・・・。
案の定、被告人国定徹は、すぐに高山夫婦殺害の容疑で逮捕され、そして裁判も自分たちに都合がよい方に滞りなく進んでいた。
犯人の目論見通り、被告人に罪をかぶせた。
つまり、“殺人事件そのものを嘱託する”のに成功した・・・はずだった、のですが。
たまたま、わたしたちが、コートのサイズがおかしいのに気づいた。
そう、これは本当に偶然の発見だったのです。
この発見がなければ、この事件は被告人の有罪判決が確定し、被告人は死刑になっていたことでしょう。」
山中秀行は、一呼吸おいてから続けた。
「そして、今、真犯人を確定する証拠がやはりコートによってもたらされました」
「ウソだ!そんなのウソだ!」
高山真彦は、思い切り声を張り上げた。
コートから指紋なんか出るわけない、そんなのハッタリだ、と真彦は確信していた。
「そうです。おそらく証人は、コートから指紋が出るはずがない、と考えているのでしょう・・・その通りです。残念ながら、コートから指紋は出ませんでした」
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