顔だけ警官の方に向け、歩みを止めずに萩原は尋ねた。
「いいえ、市内のアパートに。一人暮らしです。
『今朝方、電話をしたが、誰も電話に出なかったので不審に思い、家に来てみると裏口のドアが開いており、中で二人が血を流して死んでいた』とのことです」
裏口から家の中に入りながら、警官は簡単に説明した。
「あちらの男性です」
萩原と新島は、居間のソファーにうずもれるようにして腰掛けている男に近づいた。
居間は物盗りが荒らした後の、雑多な物で混乱をきわめている状態だった。
「息子さんですね?」
萩原がソファーの男に声をかけた。
「・・・あ、はい、そうです」
「県警の萩原です」
「新島です」
「この度は誠に大変なことになりまして、ご愁傷様です…」
萩原は目の前にいる男にまず悔やみを述べた。
その男は萩原とさほど年が変わらない風体だった。
男はどう答えてよいのかわからないといった感じで、何度か首を振ってから重く頭をたれた。
「高山さん…こんな時になんですが、少々、お聞きしたいことがあるのですが」と萩原が高山の頭に言葉を落とす。
「はい」
高山真彦は、萩原を見つめ返した。
「何かお心当たりはありますか?」と萩原は言ったものの、室内の荒らされた模様からして、単なる物盗りの犯行に思われた。
「さぁ・・・」
高山真彦は首をゆっくりと振る。
「そうですか。何か思い出したら、何でもよいので警察にお知らせください」
「はい」と高山真彦は小さな声で答えた。
これ以上真彦と話をしていても特に得られるものはないだろう、萩原慎太郎は新島と鑑識係の小渕のところへ向かった。
「やあ、萩さん、調子はどうだい?」
二人に気づいた小渕は、気さくに萩原に話しかけた。
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