Ⅱ 疑惑への疑惑 4-1

山中秀行は国定徹に接見するまでまだ時間もあることだし、国定の生まれたところに行ってみようとふと思い立った。

国定徹のことを、もっと言えば、国定徹の本性を知りたいと思った。

そして、その故郷に行けば、何かしらのものが得られるのではないかと感じたのだ。

国定の故郷は、赤城おろしが冷たく吹き下りる国定忠治で名高い佐波郡の東村だ。

現在は伊勢崎市となっている。

国定の生まれたその辺りは、地名も国定であり名字も国定姓が多いところだった。

山中秀行は、国定徹の生家を訪れた。しかし、そこはもはや廃屋と化して何年も経っているようだった。

そこで山中は隣家である、これも国定と表札が出ている家の門を叩いた。

「ごめんください。ちょっとお伺いしたいのですけど・・・」

山中の声を聞きつけ、初老だが、はきはきとした女が、家の中から出てきた。

「はいはい、なんですか?」

「あのう、ちょっと国定徹さんのことを伺いたいと思いまして」

「警察の方ですか?」

「いえ、弁護士です」

警察ではなく弁護士と聞くと、女の表情は若干緩んだ。

「はい?どのようなことで?」

「国定さん、え~と国定徹さんはどのような方だったのか、それを知りたいのです」

「まあ、そうですか。でも、わたしなんかはね、よくは知らないけど」

「知っている範囲で結構ですから」

「そうですかぁ、それじゃ話しますけどね、あの子はね、子どもの時はおとなしくていい子でしたよ。親の言うこともよく聞いてたしね、えぇ。

それがね、高校出てぷらっと出てったきりでしょ、え?それでなんですか、次に知ったのは新聞だってからね、こりゃ驚きもしますよ。あんなね、おとなしかった子がね、泥棒だなんてね、まあ、でも徹んとこは貧しかったしね、まあ、この辺なんてみんな同じようだけどね。でもまあ、人殺しまでするとはね、怖い世の中だね」

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