「あの日、俺は確かにあのうちに、高山さんの家に行きました」
「それは何時頃ですか?」
「2時頃です、夜中の」
「それで中に入った」
「はい」
「ピッキングの道具は、持参して行ったのですね」
「ええ、まあ、一応これが商売道具ですから・・・」
国定はなんら臆せずに言った。
「そして、調書では、室内を物色中に家人と出くわしたとありますが…」
「いえ、知りません。あってません」
「遭っていない?それでは国定さんは、この時どうしてたのですか?」
「あれはですね・・・」
国定徹は、目を左上の方向へ向けながら思い出すようにして話した。
「あれですね・・・目が慣れるまで部屋にいたんです。確かあの感じだと台所だと思うんですが、そしたら後ろの方からゴソゴソっと音がして、なんだよ誰かいるのかよ、って思った瞬間、頭をガツンとやられまして・・・
しばらく、うとうとした状態で、そしたら、なんだか先の部屋が慌ただしくなって、それでも俺の頭は、はっきりしてないんで、何か言い争ってた感じでもあるし、でも頭がズキズキしたんで・・・」と言いながら国定は後頭部を押さえた。
「それでは、国定さんの他に誰かがいたということですか?」
「そうです。それ以外には考えられないですよ」
そうは言われても、山中秀行の国定への猜疑の気持ちは揺るがなかった。
「それで、それから国定さんは、どうしましたか?」
「誰かに顔をピシャピシャ叩かれたような感じがして、目が覚めまして、急いでその場を離れたんです」
「それでは室内を物色したというのは?」
「そんなおっかないこと。もう、そりゃすぐに逃げましたよ」
「でも、30万円のお金は?」
「それが、不思議なもんで。ポケットの中にね、へぇ、入っていたんですよ。今さら返す訳にもいかねえから、まあ使っちまおうと思いましてね、へえ」
「はぁ、そうですか。それでは国定さんのアパートのベランダから出てきたコートですが?」
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