山中の事務所を辞した萩原と新島は、藁をもつかむ思いで高山家へ向かった。
そこに何かあるかどうかはわからなかったが、萩原は現場第一主義に立ち返った。
というよりもただ単に、何かしらしていないと萩原が落ち着かなかっただけなのかもしれない…。
高山家を訪れると、高山真彦の姉の松本巴江が遺品の整理をしていた。
「ええ、次回の裁判が終わったら、しばらくはこちらにも来ませんので、その前に不用なものは処分しようかと」と言って、巴江は萩原たちを迎え入れた。
「そうですか」と新島が相づちを打った。
「もしよかったら、片付けてしまわれる前に、ちょっと室内を見させていただいてよろしいですか?」
萩原が巴江に訊く。
「ええ、どうぞ・・・」
全くこの人たちは何が目的なのかしら?という感じで巴江は答えた。
萩原たちは、何度も訪れていた高山家を見て回った。
しかし、台所や事件のあった居間は、かなり片付けられている。
最後に寝室を覗いてみると、そこにはまだわずかではあるが生活感が漂っていた。
「寝室は手付かずですか?」
新島は、二人の刑事の後ろからついて歩いてきた巴江に訊いた。
「ええ、まだそのままですね。特に何もありませんので、ほぼあの時のままですよ」
萩原たちは寝室の中に入り、文机の上の書類やノート類をパラパラとめくった。
入口左手にある大きな書棚には、びっしりと本が詰まっている。
ベッドサイドの小さなサイドテーブルの上に、その場には不釣り合いな、いかにも高そうな万年筆がぽつりと置かれていた。
そうか、日記か何かがあれば、そこに何か書かれているかもしれない!と萩原は思った。
「巴江さん、お父さまとお母さまは、日記などは書かれていませんでしたか?」
萩原は巴江に訊いた。
「ええ、ふたりとも筆まめでしたからね。特に父はメモ魔でしたから」
それだ!と萩原は直感した。
「そ、それを拝見できますか?」
萩原は興奮を抑えながら巴江に言った。
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