Ⅲ 弁護士の直感+刑事の嗅覚 VS犯人の姦計 1-3

「まあ、そうですね」

新島が山中の調子に合わせた。

「ただ、わたしには、国定さんの接見の時の話の方が、彼の自白調書よりも真実味があるように感じられまして。すんなりと受け入れられるのですよ。調書の方は何か無理があるような、どこか作られたような・・・」

「・・・なるほど」

そう言いながら、萩原慎太郎は、持参した国定徹の調書のコピーに目を通し始めた。

「国定さんが言うには、確かに現場の下見もしたし、その時間現場にもいた。しかし室内に入ったところで何者かに頭を殴られて気を失った。意識を取り戻して慌てて現場を離れて、アパートに戻ってみるとポケットには30万円入っていた。どこでどう盗ったのかはわからないけれど、今さら返す訳にはいかないので着服した、とういう話でした」

「いやいや、そんなの信じられないですよ」

新島が首を振りながら山中に言い寄った。

「だって、現場には指紋のついた包丁とゴム手袋があり、部屋からは血のついたコートが出てきて、国定の手持ちの金からも被害者の血液反応が出ている、これだけ物証があるんだから、ねえ、萩原さん」

「それは、そうなんですけど・・・」という山中の言葉を、萩原は途中で遮った。

「そうだからこそ、なんだよ、新島。そうだからこそ、むしろ疑わなければいけないんだよ」

「どういうことですか?」

萩原慎太郎の言葉に、新島も山中も不思議そうな顔をした。

「じゃあ、物証が一つもなかったら、新島、どうする?」

「どうするって・・・それはまあ、一つもなければ立件するのは相当難しいでしょうね、でも、萩原さん、自白がありますから」

「自白。確かに自白は最大の証拠となる。しかし、その自白は物証があったからこそ。物証があったから、国定を引っ張ってこられて、その結果得られたものだ」

「・・・ん~・・・」

新島は眉根を寄せた。

「つまりは山中先生がおっしゃるとおり、国定徹はやってないのかもしれない、少なくともその可能性はある・・・まあ、単なる刑事のカンですけど」

萩原慎太郎は、山中を見ながら苦笑いした。

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