なんだ、やっぱりハッタリかよ、と真彦は小さくせせら笑いながら、安堵の息をついた。
「指紋が出たのはコートではなく・・・コートの入っていたゴミ袋です」
山中の声が、静まり返った法廷内にこだまする。
「・・・」
真彦の顔から、人としての表情が消えた。
「・・・真彦さん、これから先は警察で詳しく調べると思います。あなたを追求するのはわたしの仕事ではありませんから。ただ、一つだけ教えて頂けませんか?」
「・・・」
真彦は獣のように喘ぎながら、うつろな目で山中を見あげた。
「被告人国定徹は、高山良子さんが殺される間際に、こう聞いたと言っています。
『お父さん、どうしたのですか?・・・なに、あなたたちは・・・なにやっているの?・・・あ、マーク・・・』と。
わたしはずっとわからなかった。なぜ良子さんが最期に『マーク』と言ったのか・・・どうも良子さんの最期の言葉にはふさわしくない気がずっとしていたのです。
でも、我々が『マーク』と思い込んでいただけで、これは『マーク』ではなかった。
違ったのですね。
あなたはその場にいた。
そして、あなたに気づいた良子さんは、あなたに言ったのですね。
良子さんは、あたなに向かって最期に『まーくん』と言ったのですね?」
「・・・」
高山真彦は放心の体で、その場に崩折れた。
真彦のその様子が、山中秀行の説明が正しいことを如実に物語っていた。
法廷内ではただひとつ、松本巴江の嗚咽する声のみが虚しく響いていた。
《了》
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