Ⅱ 疑惑への疑惑 3-2

「ちょっと、お父さん」

「ん?なんだ?」

山中が亜沙子を見ると、喜んでいるどころか怒った顔で、父の顔を睨んでいた。

「お父さん、何、勘違いしているのよ」

「え?」

「あの人は何も悪いことしてないのよぉ、もう」

「え?本当に?だってお前が『そんなの困る』とかなんとか言っているのが聞こえたし、見るからに風体のよくない若者だったから、つい」

「もぉ、あの人は、バイクに乗っていて水たまりで水をはねちゃって、それがわたしにかかったから、謝っていたのよ」

「?」

「それで、クリーニング代とか払います、って言うからそんなことまでしてもらわなくてもいいですよ。そんなことまでしてもらったら返って困ります、って、そういう話だったんだよぉ、もう。いい人だったのに、あんな風に言うなんて、お父さん、最低・・・」

「・・・す、すまん」




「・・・ということがあったんだよ。いや~、まいった、まいった」

翌日事務所に行くと、山中秀行は森井美幸と山本竜二に、昨日起こったことを笑いながら話した。

「へ~、先生もお嬢さんのことになると冷静じゃなくなっちゃうんですね」

森井がくすくす笑った。

「でも、そう言うのってわかるなぁ。思い込みって言うんすかね」と山本も笑いながら続ける。

「そうだね。もう無意識で思い込んでしまっているから、ああなるとダメだね。いや~面目ないよ」

「でもね、先生、確証バイアスっていうのがあるみたいですよ」と山本が言った。

「確証バイアス?」

山中と森井は興味深そうな顔をした。

「振り込め詐欺なんてのは典型ですね。警察が出てきて、弁護士が出てきて、それでは息子さんに代わります、ってなると人間ってもう半分くらいは無意識に、次は息子だ、って信じてしまうみたいですよ」

「へ~そんなもんかね?」

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