Ⅳ 無知の暴露/真実の暴露 2-5

「お父さまは大変な読書家だったんですね?」

新島は巴江のいれたお茶をすすりながら言った。

「ええ、昔っからそうでしたね。趣味といえば本くらいで、まじめで、勤勉な人でした。まーくんも、あ、あの真彦も少しは似てくれたらよかったのにね、ってみんなで言っていたんですよ」

「はあ、それはなんとも・・・」

新島は言い淀むしかなかった。

まーくんか、高山真彦は、みんなからまーくん、まーくん、言われて、かわいがられていたのだな、と萩原は思った。

「万年筆もいいものが揃っているし、書く方も目指されていたんですかね?」

「ええ、昔はなんだかそのようなこと言っていたようですけど」

万年筆・・・。

萩原の中で何かが引っかかった。

万年筆がベッド脇のサイドテーブルに置いてあったな・・・。

ということは・・・ということは?

何かたりない・・・そうか、と萩原は閃いた。

「あの、巴江さん、ベッドの脇に小さなテーブルがあって、そこに万年筆があったのですけど」

「はい、それが何か?」

「あそこは片付けましたか?」

「いいえ」

「そうですか・・・万年筆があるのに、メモ帳の類が見当たらなかったのですが。片付けていらっしゃらない?」

「ええ、特には何も」

「そうですか・・・」

日記帳と一緒に真彦が始末したのか?

そうであるような、しかし、そうではないような気が萩原にはした。

「でも、あれだけ本があると結構な値段で売れそうですね?」

新島が巴江に尋ねた。

「いえいえ、ダメですよ」

「え?どうしてですか?」

「いえね、父はメモ魔でしてね。本だろうがなんだろうが、そこら中にメモ書きをしてしまうので・・・」

それを聞いた萩原の脳内に、束の間であるが何かの兆しとおぼしき電気が駆け巡った。

そうか、そうかもしれない、と思いながら萩原は無言で立ち上がり、寝室へ走った。

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