Ⅰ 疑惑、そして、自白 5-2

「はぁ、俺は・・・俺はなんだか違うような気もするんですけど、どうなんですかね?俺の思い違いなんですかね?」

「そうだよ。人間誰だって思い違いくらいするさ、え?だからさ、よおく思い出さなきゃいけねえぜ、え?国定よぉ」

「はあ、でも、俺にはそんなこと・・・そんなことした覚えもないし・・・」

「いや、国定よぉ、思い出すんだよ、な、お前さんの指紋のついた包丁があった。ということはお前さんの手には包丁があったんだよ、え?いいかい」

「は、はぁ・・・」

「いいか国定、頭ん中の記憶だけじゃなくてな、こうな、手に残った、こう包丁の感触だよ、それをな、思い出すんだよ」

国定は朦朧とした意識の中で言われた通りに包丁の記憶を、包丁の感触を頭に思い浮かべた。

「・・・あぁ、包丁の感触・・・」

「どうだい、思い出したろ?」

「あ、はい、包丁・・・感触・・・確かに」

「な、そうなんだよ、よおく思い出せ、頭ん中でな、こうな、お前は包丁を握りしめている。そうだよな?」

国定は轟の言葉に吸い寄せられるかのようにうなずいた。

「そうだ、それでお前の前に人がきた。しまった、これじゃ捕まるかもしれねえ、それでお前はその持ってた包丁で・・・」

「・・・刺した・・・」

国定はなにかに憑かれたかのように轟の後を続けた。

「ふ~、そうだな、お前はやむなく、とっさに高山さん夫婦を刺した。そうだな?」

国定の頭の中で自分が高山さん夫婦を包丁で刺している鮮明なシーンが流れた。

「・・・はい、俺が刺してます・・・刺しました・・・」

国定はぐったりしながらつぶやいた。


「で、それからな、凶器の包丁はいつどこで買ったんだ?」

渡辺が国定に尋問した。

「へ?いつ、どこで?」

「おい、国定さっさと答えろよ」

「・・・わかりません」

「・・・。お前なぁ、おい、こらよぉ、なんでそんなことくらい答えられねえんだよ、ったくよぉ」

渡辺は国定のことを本気でぶん殴りたくなった。

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