Ⅰ 疑惑、そして、自白 6-2

国定徹は、もう自分でも何がなんだかわからなくなっていた。

自分の記憶がわからなくなっていた。

渡辺の読み上げた自白調書がところどころで引っかかるのだが、実際どこがどうおかしいのか自分でもわからなくなっていた。

ほんの数日前なら簡単に否定し、弁解できそうなことを今やそうできる自信は微塵もなかった。

国定は渡辺と轟に促されるがままに署名し、そして震える指を紅色の朱肉につけ、それから自分の名前に、その震える人差し指を押し付けた。



国定徹は自白調書を元に検察官から再度取り調べを受け、何度か弁明を試みたが検察には取り入れられず、高山彦三郎・良子夫婦殺人の容疑で起訴された。


そして、自分で弁護士を雇うことができない国定に国選弁護士がついた。

民事を主な仕事としていたが、許す限り刑事事件を扱っている弁護士、山中秀行だった。

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