「そうなんだよ。小柄な国定さんは、どう考えてみたって、サイズはSかMだよ。いくらなんでもLLを買うことはない。そうだろう?」
「そ、そうですよ。いくらなんでも大きすぎますよ」
山中秀行は、受話器を取り、警察に電話をした。
コートのサイズが間違っていないか確認を取ったが、やはりコートのサイズはLLで、間違いなかった。
大いなる矛盾点をひとつ見つけたのだ。
そして、電話を切る前に、担当していた刑事と連絡を取りたい旨を伝えた。
山中秀行は、いささか興奮気味に室内を歩き回った。
そして、机の上の証拠物―包丁、ゴム手袋、コートを横目で見ながら、机の周りをグルグルと回った。
「ん?そうか・・・どうしてだ?」
「どうかしましたか?」
森井が尋ねる。
「ゴム手袋・・・どうしてないんだ・・・」
「あ、それ、さっきわたしが・・・」
「違うよ、違う、違う。どうして現場にゴム手袋が、片方しか、残されていないんだぁ」
ゴム手袋を手にはめながら、山中秀行は森井美幸に言う。
「これって、ゴム手袋って、よくわからないけど、滑り止めにもなるよね?」
「そうですね」
「ならば、そうならばだよ・・・どうして国定は、ゴム手袋を片方だけ取る必要があったんだ?」
その時、事務所の電話が鳴り響いた。
高山夫婦殺害事件の担当だった萩原慎太郎だった。
山中は森井と電話を替わった。
「もしもし、お忙しいところ恐れ入ります。国定徹の弁護人の山中秀行です」
「国選の先生ですよね、うかがっております。萩原です。無罪を主張しているんですよね?何か見つかりましたか?」
萩原の馬鹿にした口ぶりに山中はいささかムッとしたが、つとめて何でもないような素振りで、山中は話を切り出した。
0 件のコメント:
コメントを投稿