Ⅳ 無知の暴露/真実の暴露 2-4

「あ、はい、どうぞ。この前見たら、確か書棚の下にありましたので・・・」

巴江がそう言い終わらないうちに、萩原と新島は書棚の下部にあるノートを取り出した。

高山彦三郎の日記は、ずいぶん古いものから始まっており、合せて16冊ほどあった。

萩原が年号を確認しながら中身に簡単に目を通し、古い年の日記をはじいていくと、日記は去年の夏を境に終わっていた。

「あの、巴江さん、これ去年の夏で終わっているんですけど、続きはありますか?」

「え?そこにあるだけですよ」

「え?・・・新島、もう一度最初から確認だ・・・」

萩原は嫌な予感に捉われた。

やられたか?

真彦にやられたのか?

萩原たちが何度も探してみても、事件があった直前の日記は見当たらなかった。

「巴江さん、去年の夏頃から、彦三郎さんが急に日記を書かなくなったってことはないですよね?」

新島が一応確認のため巴江に尋ねる。

「さぁ、そんなことはないと思うのですけど。どうでしょうねぇ」

巴江も思案顔で答えるしかなかった。

ふん、長年続けていた日記を急に止めるなんてのはないだろ、と萩原はこの状況を苦々しく思った。

「萩原さん、一応、預かりますか?」と新島が日記の束を持ち上げながら訊いた。

「いや、片付けよう」

萩原は無力に首を振りながら答えた。

日記帳を片付け終え、そこにあるはずだった一筋の光を見失い、萩原は再度絶望の淵に立たされた気がした。

重苦しい空気と圧迫感の中、萩原は文机の上にあるドストエフスキーの『罪と罰』を見つめた。

萩原も学生時代に読んだ本だ。

内容はもうほとんど覚えていなかった。

身勝手な思想の青年が、金貸しの老婆を殺してしまう話だったように萩原は記憶していた。

ふ、死ぬ間際に読んでた本が『罪と罰』か・・・皮肉なもんだな、と思いながら萩原は本を取り上げ、ページをめくろうとした。

「お茶がはいりましたよ」

巴江が萩原たちに声をかけ、萩原は本をおいて居間へ行った。

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