Ⅰ 疑惑、そして、自白 1-3

「いやぁ~、腰をぎくりとやっちまってな、それ以外はまずまずだよ」

「まぁ、お互いもう若くないんだから、無理しねえようにしないとな」

「小渕さん、俺はまだそんな年じゃないよ。で、ガイシャは?」

「二人とも腹部及び頸部の刺傷による出血多量だね。争った跡もあるし、まあ、犯人が強盗に入って、見つかったから刺して殺した、ってとこじゃないかな」

「ふ~む」

萩原と新島は、血まみれで横たわる二人の被害者に目をやりながら小渕の話に耳を傾けた。

「それで、何かブツは残ってましたか?」

萩原があまり期待しないで小渕に尋ねた。

「それがね・・・あるよ」

「ほ~、それはありがたい、何があったんですか?」

「血のついた包丁。まあ凶器だろうな」

「凶器が?」

新島が驚いたような声をあげた。

そして、萩原もまた少なからず驚いていた。

間抜けな物盗りだな、しかしこれで捜査がずっと楽になった、と萩原は心の中でひそかに感謝した。

「あとは犯人のものと思われるゴム手袋。この分だと、指紋もあちこちから出てくるだろうよ」

小渕は、あくまで事務的な口調で話を続けた。

「そうであってほしいもんです」と言いながら、今回の犯人ならば、それもありうるかなと、萩原は考えていた。

室内には争ったような跡があり、またタンスの引き出しなどはめちゃくちゃに開け放たれていた。

そんな犯行現場を見て、萩原は、この事件はすぐに解決させる、と腹の中で強く思いながら捜査に取りかかった。


血のついた凶器と思しき包丁が鑑識に回され、その血痕は被害者二人のものと判明した。

また、その包丁の握りの部分からは指紋も検出された。

その指紋は警視庁のデータベースで照会され、待つ間もないほど早く、その指紋が国定徹という男のものであるとわかった。

国定徹は、窃盗の罪で服役していたことがある前科2犯の男だった。

その日の午後には県警各所を通じ、国定徹は全国一斉に指名手配された。

翌日、群馬県警は伊勢崎市内のパチンコ店で、国定徹を太田市の高山夫婦殺人事件の被疑者として緊急逮捕した。

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