萩原慎太郎の中で、進めそうでなかなか進めない、もやもやとした苛立ちが渦巻いていた。
萩原は新島を伴い山中を訪ね、捜査の進捗状況を伝えた。
そして、国定から何か新たな情報を聞き出していないか、山中秀行に尋ねた。
「国定は『ナカジマ』という名前に、心当たりはないと言っていたんですね?」
萩原は山中に訊いた。
「ええ、知らないと。現場でもそのような名前は聞かなかったと言っています」
山中は答える。
「そうですか・・・それでは、国定は現場で、何か聞いたとは言ってませんでしたか?」
「あ、そのことなんですけど、ちょうどお伝えしたいことがありまして。でも、どうもこれは参考になるかどうかわかりませんが」
「どうぞ、お話しください」
「国定さんが頭を殴られて、気絶している時に、ほんの微かですが声が聞こえたと」
「ほう、それはどんな?」
萩原慎太郎は、興味深そうに身を乗り出す。
「年寄りの女性の声で、これは多分殺された良子さんだと思われるのですが―『お父さん、どうしたのですか?・・・なに、あなたたちは・・・なにやっているの?・・・あ、マーク・・・』とこんな感じです。刑事さん、どう思われますか?」
「先生、もう一度、言ってもらえませんか」
萩原は山中の言葉をメモするよう、新島に指示した。
「はい。『お父さん、どうしたのですか?・・・なに、あなたたちは・・・なにやっているの?・・・あ、マーク・・・』です」
萩原慎太郎は、小さな声で、それを復唱した。
『お父さん、どうしたのですか?』
異変に気づいた妻の良子が、夫の彦三郎に言った言葉。
『なに、あなたたちは』
あなたたち、犯人は二人もしくはそれ以上、ホームレスのナカジマも同じことを言っていた。
『なにやっているの?』
おそらく良子は明かりをつけて犯人たちに気づいた。
真彦に?気づいた?
『なにやっているの?』
これだけじゃ真彦とは断定できないな。
『あ、マーク』
???
マーク?
なんだ?マークとは?なんのマークなのだ?
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