Ⅲ 弁護士の直感+刑事の嗅覚 VS犯人の姦計 6-1

萩原慎太郎の中で、進めそうでなかなか進めない、もやもやとした苛立ちが渦巻いていた。

萩原は新島を伴い山中を訪ね、捜査の進捗状況を伝えた。

そして、国定から何か新たな情報を聞き出していないか、山中秀行に尋ねた。

「国定は『ナカジマ』という名前に、心当たりはないと言っていたんですね?」

萩原は山中に訊いた。

「ええ、知らないと。現場でもそのような名前は聞かなかったと言っています」

山中は答える。

「そうですか・・・それでは、国定は現場で、何か聞いたとは言ってませんでしたか?」

「あ、そのことなんですけど、ちょうどお伝えしたいことがありまして。でも、どうもこれは参考になるかどうかわかりませんが」

「どうぞ、お話しください」

「国定さんが頭を殴られて、気絶している時に、ほんの微かですが声が聞こえたと」

「ほう、それはどんな?」

萩原慎太郎は、興味深そうに身を乗り出す。

「年寄りの女性の声で、これは多分殺された良子さんだと思われるのですが―『お父さん、どうしたのですか?・・・なに、あなたたちは・・・なにやっているの?・・・あ、マーク・・・』とこんな感じです。刑事さん、どう思われますか?」

「先生、もう一度、言ってもらえませんか」

萩原は山中の言葉をメモするよう、新島に指示した。

「はい。『お父さん、どうしたのですか?・・・なに、あなたたちは・・・なにやっているの?・・・あ、マーク・・・』です」

萩原慎太郎は、小さな声で、それを復唱した。

『お父さん、どうしたのですか?』

異変に気づいた妻の良子が、夫の彦三郎に言った言葉。

『なに、あなたたちは』

あなたたち、犯人は二人もしくはそれ以上、ホームレスのナカジマも同じことを言っていた。

『なにやっているの?』

おそらく良子は明かりをつけて犯人たちに気づいた。

真彦に?気づいた?

『なにやっているの?』

これだけじゃ真彦とは断定できないな。

『あ、マーク』

???

マーク?

なんだ?マークとは?なんのマークなのだ?

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