Ⅱ 疑惑への疑惑 1-2

「そ、そんな・・・この期に及んで・・・反省どころか・・・」

「そうなんだよ。いやね、僕だって、情状酌量か様子次第では精神喪失の線しかないと思っていたんだけどね」

「はい。それくらいしか対処のしようはないかと思われますけど・・・」

「そうなんだよね。でも、彼が言うように無実を訴えて審理の引き延ばしで時間を稼ぐっていうのも・・・まあ、なくはないのかなぁってね」

「でも・・・そうですよね」

森井は、悔しいが弁護士とは合法的などんな手段を使ってでも、被告人の有利になるように努めなければいけない、ということを認めざるをえなかった。

「見た感じでは、ちょっと気は弱そうだったけど、精神に異常をきたしているって線では難しいだろうな。情状酌量って言ってもなぁ、強盗殺人だからな。そうなると減刑もやはりどうかな?しかも前科もある・・・長くなるけど、いや長くなるからこそ、とことん無罪を主張するって言うのも戦略としては外せないかもしれないね」

山中は人権派の弁護士でも逆の思想の持ち主でもなかったが、与えられた仕事には全力であたることを本分としていた。

そして今回も被告人の利益のために最善を尽くそうと思案していた。

「でも、確たる証拠があるんですよね?」

森井はその線で行くのには相当無理があるのではないかと懸念していた。

「そうなんだよ。確たる証拠と確たる自白の供述書。物証は現場から被告人の指紋がついた包丁、被告人の指紋がついた右手側のゴム手袋、指紋は他に壁に2カ所、家の内側のドアノブに1カ所。被告人のベランダから被害者の血痕がついたビニールレザーのコート、被告人の手持ちの現金からわずかだが被害者の血痕・・・」

「これだけ物証が揃っていて・・・無罪なんて、まあ、よくもそんなことをぬけぬけと・・・」

森井は私的な感情になったことに気づき、顔をあからめながらすみませんと謝った。

「まあ、誰でもそう思いたくなるのは当然だろうね」

「いえ、すみません・・・」

「物証もある。動機もある。自白もしている。そして、アリバイはない・・・八方塞がりだからこそ無罪を主張するしかないかな?・・・とね」

「ただいま戻りました~」と、居候弁護士の山本竜二が事務所に帰ってきた。

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