Ⅱ 疑惑への疑惑 1-3

「おお~御苦労さん」と声をかけた山中を尻目に、森井はお茶を淹れに奥へ行った。

そして山本のために淹れたお茶を持って戻ってきた。

「はい、お疲れ様ね」

「あ~ありがとうございます・・・ん~やっぱり美幸さんの淹れてくれたお茶が一番ですよ」

「まぁ、うまいこと言っちゃって。山本君、誰にでもそんなふうに言ってるんでしょ?」

「そんなことないですよ。彼女からはもっと気を遣ってくれって言われてますし、ははは」

「ははは、じゃなくてな、山本くん、彼女は大切にしなきゃダメだぞ」

山中は山本と同じように快活に笑いながら言った。

「そうですね。でも、たまにはケーキとかも買って行くんですよ」

「へ~偉いじゃん」

「まあ、たまにですけどね。でもね、この前ちょっとがっかりっていうか、何か見てはいけないものを見てしまったんですよ」

「え?なになに?すごく気になるじゃない」

森井が山本の方に少し身を乗り出した。

「なんだよ、もったいぶってないで聞かせろよぉ、山本君」

山中も興味深そうに山本に催促した。

「いや、そんな、そこまで大した話じゃないんですけどね。あれですね、僕がケーキを買って、彼女のアパートへ行ってですね、僕って家に帰ったらとりあえずシャワー浴びたいんですよ。ですからね、彼女のうちでもシャワーを浴びてから一緒にケーキを食べようって思っているんですよね。

それでシャワーから出てくると彼女が皿の上にケーキを用意してくれてるのはいいんですけど、いつもショートケーキが少し欠けてるんですよ。それで『どうしたの?』って訊くと『あ、これね。パブロフが少し食べちゃったの』って。パブロフっていうのは飼っているミニチュアダックスなんですけどね、こいつを指してそう言うんですよ。

まあ、そんなことならしょうがないな、なんて思っていたんですがね、そんなことが頻繁に続いたんですよ。ずいぶん甘いものが好きな犬がいるもんだなって思っていたんですけどね。最近ですね、シャワーに入ってちょっと急用を思い出してすぐに出たんですよ」

「うん。それで?」

森井と山中は、ほぼ同時に山本に話の続きを催促した。

「それで、キッチンにいる彼女をハッと見ると、彼女、ケーキを食べてるんですよ。ちょっとずつ・・・結局それまでケーキを食べてたのは、パブロフじゃなくて彼女だったんですよぉ」

「ハハハ、それじゃ居合わせただけで犬はとんだ災難だったなぁ」

山中は高らかに笑い声をあげ、森井もおなかを抱えながら声を立てて笑った。

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