Ⅳ 無知の暴露/真実の暴露 2-1

国定徹が犯人でなければ、真犯人は「ナカジマ」という男と高山真彦に違いない。

しかし、国定には動機も証拠もあり、アリバイはなく、真彦には動機はあり、アリバイはなく、証拠はなかった。

そして、ナカジマにいたってはわかっているのは、その『ナカジマ』という名前だけだ。

繋がりそうで繋がらず、さりとて全く目星がついていない訳ではない状況に、真実への一筋の光明が見い出せず、萩原慎太郎は頭を抱えていた。

それでも、丹念な捜査によって、蜘蛛の糸のような細い手がかりが、高山真彦から伸びていたのを調べ上げていた。

「萩原さん、やっぱり真彦と金貸しの田山とは繋がっていました」

別行動で動いていた刑事が、萩原に報告した。

「どういうことだ?」

「はい。真彦が金を借りていたところなんですけど」

「うん、東興ファイナンス、だろ?それがどうした?」

「実は調べたところ、以前、田山が2年ほどそこにいた、ってウラがとれました。田山はそこで闇金のノウハウを学んで、それから一本立ちしたようです。それで、いまでも東興ファイナンスの社長の森田と懇意にしてるって話です」

「それで・・・ナカジマも東興に絡んでいたか?」

「さぁ、そこまではなんとも・・・」

「でも、これで繋がったな、御苦労さん。おそらくはこういうことだ・・・」

萩原は自分の思っていることを、新島や他の刑事に説明した。

萩原の頭の中では、高山真彦の存在が揺るぎない位置を占めている。

真犯人は・・・真彦だ、そのためには証拠が必要だと思った。

そして、萩原は第2回目の公判を終えたばかりの山中のもとを訪ねた。


萩原たちが山中の事務所を訪れると、山中のいつもの温和な表情は陰り、その顔には徒労の色がはっきりと出ていた。

「先生、裁判はどうでしたか?」

新島が山中に尋ねる。

「いや~、散々でしたよ。暖簾に腕押し。糠に釘…」

山中は苦笑いしながら、公判の内容を伝えた。

「そうですか」

「やはり悔しいですけど、真犯人が見つからない限り、この状況はいかんともしがたいですね」

「・・・」

萩原たちには返す言葉が見つからなかった。

「しかし、悔しいですね。本来なら、裁判の原則は推定無罪なのですが、どうも日本の司法ときたら推定有罪ですからね」

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