「いや~、いいですね、暢気にお昼寝ですよ」
少し離れたベンチで横になっているホームレスの男を見ながら、新島は小声で萩原に言った。
「そうでもないだろ。ホームレスだってそうそう楽ではないよ」
萩原は笑いながら新島に言う。
「萩原さん、経験者ですか?」
「まあな、昔ちょっと・・・ん?」
何かが気になった萩原は、スタスタとそのホームレスに向って歩いて行った。
「こんちは」
萩原はホームレスの男に話しかけた。
「ん?・・・」その男は眠たそうで、迷惑そうな目を向けた。
「ちょっと聞きたいんだけどね」
「警察?」
「よくわかるね」
「俺みたいな奴に気安く話しかけるのは、警察か偽善者くらいですよ」
「ははは」
新島は声に出して笑った。
「そうだな」萩原も苦笑いする。
「で、なんですか?ここから出て行けって?」
「いや、そうじゃないよ。本当はそんな必要もあるかもしれないが、それは俺たちの仕事じゃない」
「だったらなんですか?」
「3月の初めに、この近くで殺人事件があったの知ってるかい?」
「あぁ~あれか、うんうん、朝からパトカーのサイレンがやたらとうるさかったなぁ。後で図書館で新聞読んだら載ってたし、その後もテレビやなんかが来てたでしょ?」
「ああ、それだよ。その時ね、その日でも前でも後でも構わないんだがね、何か変わったこととか、おかしな奴とか見かけなかったかい?」
「・・・う~ん、あの日にね、どうだかなぁ~・・・う~ん・・・」
「そうか、ありがとう」と、萩原たちが立ち去ろうとすると、何かを思い出したかのように、その男があっという声を立てた。
その「あっ」という声に、萩原たちは振り返る。
「刑事さん!思い出したよ」
ホームレスの男は大きな声で二人を呼び止めた。
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