国定徹は留置場の独房で眠られぬ夜を過ごし、朦朧とした意識のまま再び取調室に連れて行かれた。
国定は先ほど食べた朝食の味さえもわからぬほど気持ちが昂ぶっていたが、昂ぶる気持ちの落とし所に苦悶してもいた。
昨夜とは違う二人の取調官が、昨夜と同様に国定を執拗に責め立て、国定はただうなだれるだけで、供述に進展はなかった。
ただ国定の目からは、徐々にではあるが生気が薄れていった。
午後は、また昨夜の轟と渡辺のコンビに取り調べがかわる予定だった。
「轟さん、あいつなかなか口を割らねえですよ」
午前中担当していた岡田が、轟にうんざりした顔を見せた。
「そうかぁ・・・で、少しはほぐれてきたか?」
少しは進んで話をするようになってきたかという意味のことを轟は岡田に尋ねた。
「まあ、そうですね。ずっと黙秘を決め込むつもりでもないみたいですね。なんか時々喋りたいような、そんな素振りもするんで・・・まあぼちぼち喋り始めるんじゃないんですかね?」
「だといいんだがよ・・・」
轟は、ドーナツ屋で出てくるような薄いコーヒーを、ゆっくりとすすった。
「なあ国定さんよ・・・」
轟がゆっくりと話し始める。
「おれぁわからねえんだよな・・・なんでそんなに意地張ってよ、証拠があがってるんのに意地張ってよ。え?そこんとこは何か理由でもあるのかい?」
「・・・だから・・・やってねえから・・・そんなふうに初めっから・・・そんなふうにやったことが前提になってちゃ・・・俺は・・・俺だって・・・」
「なんだ?なんだい?ゆっくりでいいぞ?何か言えねえ訳でもあるのか?誰かに頼まれたのか?誰かに脅されてるのか?」
「・・・」
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