Ⅱ 疑惑への疑惑 2-1

これからの弁護方針、というよりも自らの意志が定まらないまま山中秀行は、国定徹との接見のため再び前橋拘置所を訪れた。

無罪を主張するにしても、勝算は0に近く、山中としても社会的な批判も受けるであろう。

しかし、それでも被告人が望むのであれば、とことんまで無罪を主張する戦略を取ることも厭わない、と思ってはいたものの、やはりどこかで釈然とはしない社会正義を感じていた。


山中の目の前にいる、身長160センチの小柄な体躯の国定徹は、37という年齢よりもだいぶ老けて見えた。

それでも弁護士である山中を見ると、国定徹は子どものようにうれしそうな表情をした。

「国定さん、先日のお話を伺いまして考えたところ、それもありうるかな、と思いまして」

「あぁ~ありがとうございます・・・信じてもらえるんですね。先生は俺のことを信じてくれるんですね」

国定はガラス越しの接見であるにもかかわらず、山中に抱きつかんばかりに山中に近寄った。

しかし、今にも泣きださんばかりの国定の心の底まで、山中秀行にはわからなかった。

「国定さん、落ち着いてください。お互いの信頼がなければ弁護などできませんから」

「はい、はい、そうですよね。すみません」

「いえ・・・」

「ありがとうございます、先生。いやねえ、俺はただ信じてもられるだけでうれしくって、うれしくって・・・」

はばかることなく、国定は大粒の涙をこぼした。

「は、はぁ・・・」

そんな国定徹に、いったいどんな言葉をかけていいのやら、山中にはわからなかった。

無罪を主張するという戦略で裁判をするというだけで、それほど喜ぶものなのかと山中は訝しく思ってさえいた。

国定が落ち着いてきたのを見計らい、山中は口を開いた。

「ひとつの裁判手段の選択肢としてですね、考えてみるのもいいかと思いまして。証拠も自白調書も揃っていますので、最後の方法として、それらをすべて否定するっていうのも、これは取りうる手段かと考えています」

「?へ?手段?方法?」

「えぇ、そうです。このまま裁判に入っても99・9%勝算はありません」

「せ、先生!だから、俺はやってないんだよ」

「・・・国定さん・・・」

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