これからの弁護方針、というよりも自らの意志が定まらないまま山中秀行は、国定徹との接見のため再び前橋拘置所を訪れた。
無罪を主張するにしても、勝算は0に近く、山中としても社会的な批判も受けるであろう。
しかし、それでも被告人が望むのであれば、とことんまで無罪を主張する戦略を取ることも厭わない、と思ってはいたものの、やはりどこかで釈然とはしない社会正義を感じていた。
山中の目の前にいる、身長160センチの小柄な体躯の国定徹は、37という年齢よりもだいぶ老けて見えた。
それでも弁護士である山中を見ると、国定徹は子どものようにうれしそうな表情をした。
「国定さん、先日のお話を伺いまして考えたところ、それもありうるかな、と思いまして」
「あぁ~ありがとうございます・・・信じてもらえるんですね。先生は俺のことを信じてくれるんですね」
国定はガラス越しの接見であるにもかかわらず、山中に抱きつかんばかりに山中に近寄った。
しかし、今にも泣きださんばかりの国定の心の底まで、山中秀行にはわからなかった。
「国定さん、落ち着いてください。お互いの信頼がなければ弁護などできませんから」
「はい、はい、そうですよね。すみません」
「いえ・・・」
「ありがとうございます、先生。いやねえ、俺はただ信じてもられるだけでうれしくって、うれしくって・・・」
はばかることなく、国定は大粒の涙をこぼした。
「は、はぁ・・・」
そんな国定徹に、いったいどんな言葉をかけていいのやら、山中にはわからなかった。
無罪を主張するという戦略で裁判をするというだけで、それほど喜ぶものなのかと山中は訝しく思ってさえいた。
国定が落ち着いてきたのを見計らい、山中は口を開いた。
「ひとつの裁判手段の選択肢としてですね、考えてみるのもいいかと思いまして。証拠も自白調書も揃っていますので、最後の方法として、それらをすべて否定するっていうのも、これは取りうる手段かと考えています」
「?へ?手段?方法?」
「えぇ、そうです。このまま裁判に入っても99・9%勝算はありません」
「せ、先生!だから、俺はやってないんだよ」
「・・・国定さん・・・」
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