「実は気になることがありまして」
「ほう、気になること?」
「はい、国定が事件の際に着ていたというコートなんですが」
「はい、それが何か?」
「ところで萩原さんは、国定に会われたことは?」
「ハハハ、会われたどころか、逮捕の時、現場にいましたよ、先生」
「そうですか、それならば、話は早い」
「なんですか?もったいぶって」
「コートのサイズがおかしいんですよ」
「おかしい?」
「ええ、ご存知の通り、国定は小柄な男です。洋服のサイズはSか、せいぜいMってところだと思うんですよ」
「まあ、あの感じだとそうでしょうね」
萩原慎太郎は、パチンコ店で逮捕した国定徹を思い浮かべた。
「ところがコートのサイズは、LLなんですよ」
「LL?…
まさか・・・でも、それは・・・」
その時、萩原慎太郎は、適当に取り繕ったことを言うこともできた。
しかし、止めておいた。
萩原の刑事としてのプライド、いや単なる刑事のカンが、そうさせなかっただけかもしれない。
「それと・・・」
山中秀行は、電話の向こうで時が止まっている萩原の思考の頃合いを見計らって続ける。
「まだ…何か?…」
「手袋、ゴム手袋なんですが」
「え?それもサイズが?」
「いえいえ、そうではないのですが。なぜか右手だけ、手袋の右側だけ現場に残されていたんですよ」
「・・・そういえば・・・」
萩原は、これはもうどこかおかしい、と刑事の嗅覚がしきりに疼くのを抑えることができなかった。
山中秀行も姿の見えない萩原のそのような微妙な変化を、電話越しに読み取っていた。
「先生、山中先生。もう一度当たってみます。ですから先生の方も、わかったことや変わったことがありましたら、どんな些細なことでも構いませんので教えてください」
「はい、もちろんです」
山中秀行は、かすかであるが明るい見通しと、おそらくは有力になるであろう協力者を得たようだ。
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