国定徹の2回目の公判を控えていた。
しかし、山中秀行は考えあぐねていた。
自白の信憑性を問うために、取調官の轟志朗を喚問する予定であった。
山中自身にも、こんなことは焼け石に水にもならないとわかっている。
国定の無罪を勝ち取るには、萩原慎太郎たちが、真犯人を捕まえなければいけないことは十二分に承知していた。
それでも何かやらねばならないので、山中は足繁く国定徹を訪ねていた。
「国定さん、調子はいかかですか?」
「はぁ、まあ、おかげさまで」
「今、刑事さんたちも頑張ってくれてますから、国定さんも、何か思い出して協力してくださいね」
「はぁ、それはわかっているんですけどね・・・こればっかりはどうもねえ」
「まあ、そう言わずに。国定さんは、高山さんの息子さんの真彦さんとは面識はありましたか?」
「いえ、知りません」
「高山さんの息子さん、真彦さんに頼まれた、ってことはないですよね?」
「いえいえ、ですから、俺は殺してないですから」
「あ、すみません、そうですよね。でしたら、殺しはしなくてもいいから代わりに出頭してくれとか」
「まさか、とんでもない」
「いや、失礼。そんなバカなことはしないですよね。ヤクザの世界ならいざ知らず」
「そうですよ。そんなことして俺になんの得があるんですか?そんなの金もらったって割が合わないですよ」
「確かにそうですね。あ、そうそう刑事さんからこれを聞いてくれと・・・『ナカジマ』という名前なんですけど、事件の最中とかその他でも何でもいいのですが、ナカジマという名前に聞き覚えはないですか?」
「なかじま?・・・さあ、わかりませんね」
「そうですか。もし思い出したら教えてくだい・・・あ、そう言えば先日、事件の時に女性の声を聞いたって、あれ、思い出しましたか?」
「あぁ、あれですね。一人になって考えたんですよ・・・その時のことをこうね、思い出して・・・そしたら、こんな感じで・・・」
山中秀行は、国定徹の言葉に耳を傾けながら、ペンを手に持った。
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