Ⅲ 弁護士の直感+刑事の嗅覚 VS犯人の姦計 3-4

「どうした?なにか思い出したか?」

新島が強い口調で、聞き返す。

「えぇ、参考になるかどうかはわからないですが・・・」

「なんでもいい。話してくれ」

萩原は諭すように言った。

「はい・・・あの日の夜は今にも雪が降り出しそうだったんで、あの晩はずっと寝床にいたんですよ」

「寝床?」新島が訊いた。

「はい、あすこのトイレです」

男は公園の角にあるトイレを指さした。

「トイレが寝床なのか?」

「はい。あそこは身障者用の広いスペースがあるんで、まあ、そこをちょっと・・・」

「いいから、続けろ」と萩原が促した。

「はい・・・あれは確か明け方の3時か4時でした。寝床で寝てたらゴソゴソ物音がしたんで目が覚めたんですよ。今はホームレス狩りなんてのもありますからね、用心しないといけないんですよ。

それで耳を澄ましてたら男の話声が聞こえて、ジャージャー水が流れる音がしましてね、ザブザブなんか洗っているんだかなんなのか・・・」

「話声ってことは・・・一人ではなかったのか?」

「えぇあれは二人、少なくても二人ですよ」

「で、何か、その二人は何か話してなかったか?」

「それがですね・・・思い出しそうな、この辺まできてるんですけど・・・」

「頑張って思い出せ!」新島が言った。

「あ、そうそう・・・こんなふうでした。『大丈夫ですかね?大丈夫ですかね?』って一人がしきりにそんなふうに言って・・・

それで『大丈夫だって。だから、今さらメソメソしてんな』って怖そうな声でもう一人が言って・・・

それでも『大丈夫ですかね?』なんて初めの男が訊いて・・・

それで『ホントうるせえな、お前は。大丈夫だって言ってんだろ!』って男が怒りだして・・・

そしたら、初めの男が『すみません、中島さん』って」

「ほ、本当か!?」

萩原は声を荒げた。

「ほ、本当ですよ。そう言ってましたよ」

「確かだな?ナカジマって、確かに言ってたんだな?間違えないな?」

「ええ、だってわたしも同じ中島って名前ですから」

「そうか・・・あんた、ナカジマって名前なのか?」

「えぇ」

「年はいくつだい?」

「42です」

42だと、ずいぶん老けて見えるけど俺と同い年じゃないか、と萩原は思った。

「いや、ありがとう。これで何かうまいものでも食ってくれ」

萩原はそう言うとポケットから千円札を出し、そのホームレスに渡した。

萩原は直感的に何かが繋がり始めたのがわかった。

萩原たちは車へと急いだ。

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