新島が強い口調で、聞き返す。
「えぇ、参考になるかどうかはわからないですが・・・」
「なんでもいい。話してくれ」
萩原は諭すように言った。
「はい・・・あの日の夜は今にも雪が降り出しそうだったんで、あの晩はずっと寝床にいたんですよ」
「寝床?」新島が訊いた。
「はい、あすこのトイレです」
男は公園の角にあるトイレを指さした。
「トイレが寝床なのか?」
「はい。あそこは身障者用の広いスペースがあるんで、まあ、そこをちょっと・・・」
「いいから、続けろ」と萩原が促した。
「はい・・・あれは確か明け方の3時か4時でした。寝床で寝てたらゴソゴソ物音がしたんで目が覚めたんですよ。今はホームレス狩りなんてのもありますからね、用心しないといけないんですよ。
それで耳を澄ましてたら男の話声が聞こえて、ジャージャー水が流れる音がしましてね、ザブザブなんか洗っているんだかなんなのか・・・」
「話声ってことは・・・一人ではなかったのか?」
「えぇあれは二人、少なくても二人ですよ」
「で、何か、その二人は何か話してなかったか?」
「それがですね・・・思い出しそうな、この辺まできてるんですけど・・・」
「頑張って思い出せ!」新島が言った。
「あ、そうそう・・・こんなふうでした。『大丈夫ですかね?大丈夫ですかね?』って一人がしきりにそんなふうに言って・・・
それで『大丈夫だって。だから、今さらメソメソしてんな』って怖そうな声でもう一人が言って・・・
それでも『大丈夫ですかね?』なんて初めの男が訊いて・・・
それで『ホントうるせえな、お前は。大丈夫だって言ってんだろ!』って男が怒りだして・・・
そしたら、初めの男が『すみません、中島さん』って」
「ほ、本当か!?」
萩原は声を荒げた。
「ほ、本当ですよ。そう言ってましたよ」
「確かだな?ナカジマって、確かに言ってたんだな?間違えないな?」
「ええ、だってわたしも同じ中島って名前ですから」
「そうか・・・あんた、ナカジマって名前なのか?」
「えぇ」
「年はいくつだい?」
「42です」
42だと、ずいぶん老けて見えるけど俺と同い年じゃないか、と萩原は思った。
「いや、ありがとう。これで何かうまいものでも食ってくれ」
萩原はそう言うとポケットから千円札を出し、そのホームレスに渡した。
萩原は直感的に何かが繋がり始めたのがわかった。
萩原たちは車へと急いだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿