Ⅰ 疑惑、そして、自白 1-1

夜の黒さが滲んだ鉛色の空から、今にも雪に変わりそうな冷たい雨が降っている。春の兆しを見せ始めた頃に降る冷たい雨だ。

雨を細かく切り刻みながら、サイレンを唸らせ、覆面のパトカーが2台、早朝の道を急ぐ。

公園の東屋風の小屋の庇の下で、男がしきりに体を動かしているのが見える。すり減って、垢じみた服を何枚も着ているのが、遠目からもうかがいしれた。

きっとホームレスが凍えた体を温めているのだろう、と、萩原慎太郎は、助手席でその男を見ながら思った。

萩原は、ときどき顔をしかめながら、思い出したかのように腰をさすった。

「萩原さん、腰、大丈夫すか?」

運転席の新島が声をかけた。

「あぁ~、なんだな、年は取りたくないもんだなぁ。クシャミしただけでギクッとなったよ」

照れたように笑いながら、助手席の萩原は答える。

「へ~、ぎっくり腰ですね。クシャミくらいで、ぎっくり腰になるんですね」

「まったく・・・まいっちまうよ。これから本格的に花粉の季節だっていうのによぉ」

「はは、そうですね。整体とか行ったらどうですか?」

「え?整体?あんなもん効くのかよ?」

「あれはあれで、結構いいですよ」

「そんなもんかぁ」


萩原は、相棒の新島が話す言葉に時々相槌をうちながら、流れ去る窓外の景色に目を向けていた。

閑静といえば聞こえはいいが、地方都市ならば、どこにでも広がっているような田園風景だ。

そして、のどかな風景の一角にある屋敷が、今回の事件の現場だった。


萩原と新島は車を降り、顔なじみの警官らと挨拶を交わした。真っ白い手袋を手に、立ち入り禁止の黄色いテープをくぐり、一人の制服警官に案内されて屋敷の裏手に回った。

「被害者は二人、この家の方です。高山彦三郎さん、77歳と、その妻良子さん、74歳。これは第一発見者である息子の高山真彦さんに確認済みです」

歩きながら制服警官が萩原たちに伝えた。

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