「・・・はい」
国定はうつろな目で他人事のようにうなずいた。
「まず始めに、どちらを刺した?」
「へ?どちらを?・・・」
国定は、さぁと言いたかったがその言葉を飲み込んだ。
「・・・多分、だんな?」
「おいおい、多分じゃなくてな、お前な、多分はダメだよ。彦三郎さんの方だな?え?」
「・・・はい」
「それから奥さんの良子さんを刺した」
「・・・はい」
「それから、お前さんの持っていた現金な」
「はい」
「あれ数えたろ?いくらだった?」
「30万です」
「残っていたのが27万だな、何に使った?」
「パチンコと飯代」
「飯は何食った?」
「ラーメン・餃子のセット。夜に回転すし」
「パチンコとメシで3万使ったってことか?」
「はい」
「まあ、使い道はそんなところでいいだろ。でな、その金は高山さんちのどこから盗った?」
「…どこからって・・・さぁ・・・」
「だから、お前はなぁ!さぁってなんなんだよ。お前は本当によぉ、さぁなんて言いやがってよぉ」
渡辺は国定に掴みかかって激しく揺さぶった。
「・・・す、すいません・・・すいません」
「渡辺、放してやれって・・・なあ、国定、早く話そうぜ、こんな、なんだぁ、こまけえことにな時間使ったってなぁ、おい?」
「・・・はぁ」
「で?どこから盗った?居間か?寝室か?」
「・・・い、居間・・・」
国定は轟の表情をうかがいながらゆっくりと言った。
「そうだ、そうだよな、居間だよな。居間にある仏壇の引き出し開けて、中から盗ったんだよな?暗くてよく見えなかったろう?え?夜だったもんな、金目のものを適当に物色して30万見つけたんだよな」
轟にそんなふうに言われると国定もそう言えばそうだったのかもしれないと思い始めた。
実際、手元に30万円の現金があり、それでパチンコをし、食事をしたのは事実であったのだから・・・。
ある事件の状況証拠から、一つの疑惑が生まれる。
そして、凝り固まった疑惑が食指を伸ばしながら、次なる証拠を求めて動き回る。
獰猛な疑惑が小さな証拠を次々に飲み込み、やがて疑惑から確信へと自己成就を遂げるのだった。
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