Ⅰ 疑惑、そして、自白 2-2

「でもね、だんな、やってねえんだよ。俺はやってねえんだよ」

「やってねえってことがあるかぁ!!」

渡辺が机の脚を思い切り蹴り上げた。

ビクビクと震えている森の小動物のような国定に向って、轟が穏やかな言葉を注ぐ。

「やってねえってか?」

「うん、俺はやってねえんだよ」

「みんな、初めはやってねえってほざくんだよ!!」

渡辺は、三度四度と、机の脚を蹴り上げる。

その度に、国定の顔からは、血の気が引いていった。

「なあ、国定さん、やってねえならそれでいい。それじゃあね、聞かせてくれ。あんた3月2日の夜から3日の明け方まで、どこにいた?」

「・・・」

「え?やってねえなら、言えるはずだろ?」

「・・・」

「え!?どこにいたかって、轟さんが聞いてるだろ?!」

渡辺は国定徹の胸倉を掴むと、激しく国定の体を揺り動かした。

「まあまあ、渡辺、よせって」

ふん、と言いながら渡辺は国定から手を放した。

「なあ、国定さんよ、わたしたちは何も手荒な真似をしたい訳じゃねえんだよ。本当のことが聞きたいだけなんだよ。だからな、こいつもな、渡辺もまだ若い盛りだからな、つい熱がこもっちまってな。な?本当のことを、話してはくれねえかい?」

「け、刑事さん・・・でもな、本当に、俺は殺しなんかはしてないんだよ・・・信じてくれよぉ・・・」

「信じてくれって言われてもなぁ・・・」

轟は苦い顔をしながら、所在なげに耳の後ろを掻いた。

「なあ、国定さんよ、わかるだろう?え?刑事なんてのは因果な商売だよ。被疑者に信じてくれって言われてだよ、はいそうですねって言えればよ、こりゃ気楽な稼業だけんどね・・・犯罪者のね、俺はやってねえ、なんてね、そんな言葉をどこのデカが信じられるかってんだよ、おいこら!!」

轟は先ほどの穏やかな態度を一変させ、何度も何度もアルミ製の灰皿を机に叩きつけた。

0 件のコメント:

コメントを投稿