「でもね、だんな、やってねえんだよ。俺はやってねえんだよ」
「やってねえってことがあるかぁ!!」
渡辺が机の脚を思い切り蹴り上げた。
ビクビクと震えている森の小動物のような国定に向って、轟が穏やかな言葉を注ぐ。
「やってねえってか?」
「うん、俺はやってねえんだよ」
「みんな、初めはやってねえってほざくんだよ!!」
渡辺は、三度四度と、机の脚を蹴り上げる。
その度に、国定の顔からは、血の気が引いていった。
「なあ、国定さん、やってねえならそれでいい。それじゃあね、聞かせてくれ。あんた3月2日の夜から3日の明け方まで、どこにいた?」
「・・・」
「え?やってねえなら、言えるはずだろ?」
「・・・」
「え!?どこにいたかって、轟さんが聞いてるだろ?!」
渡辺は国定徹の胸倉を掴むと、激しく国定の体を揺り動かした。
「まあまあ、渡辺、よせって」
ふん、と言いながら渡辺は国定から手を放した。
「なあ、国定さんよ、わたしたちは何も手荒な真似をしたい訳じゃねえんだよ。本当のことが聞きたいだけなんだよ。だからな、こいつもな、渡辺もまだ若い盛りだからな、つい熱がこもっちまってな。な?本当のことを、話してはくれねえかい?」
「け、刑事さん・・・でもな、本当に、俺は殺しなんかはしてないんだよ・・・信じてくれよぉ・・・」
「信じてくれって言われてもなぁ・・・」
轟は苦い顔をしながら、所在なげに耳の後ろを掻いた。
「なあ、国定さんよ、わかるだろう?え?刑事なんてのは因果な商売だよ。被疑者に信じてくれって言われてだよ、はいそうですねって言えればよ、こりゃ気楽な稼業だけんどね・・・犯罪者のね、俺はやってねえ、なんてね、そんな言葉をどこのデカが信じられるかってんだよ、おいこら!!」
轟は先ほどの穏やかな態度を一変させ、何度も何度もアルミ製の灰皿を机に叩きつけた。
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